最近、ウェールズのユーモアについて考えてたんだけど、なんか独特だよね。イギリスの一部だけど、イングランドともスコットランドとも全然違う。なんていうか、ひねくれてて、ちょっと意地悪で、でもどこか自虐的で…うん、すごく人間くさい感じがするんだ。
この前、ウェールズを10日間くらい旅してきたんだけど、その短い間だけでも、彼らの「笑いのツボ」みたいなものが少しだけ分かった気がする。特に、道端で見かける看板とかね。親切に英語で書いてくれてるんだけど、その裏に隠された皮肉が…(笑)。ウェールズ語だけで交わされるジョークは、一体どんなレベルなんだろうって想像しちゃう。
先說結論
ウェールズのユーモアって、要するに「したたかな自己防衛」なんだと思う。長い間イングランドに抑圧されてきた歴史があるから、真正面からじゃなくて、皮肉とか、ちょっとした意地悪でマウントを取る、みたいな。でも同時に、自分たちの変な言語(失礼!)とか文化も「まあ、これが俺たちだから」って笑い飛ばす強さもある。その絶妙なバランスが、彼らのユーモアの深みになってるんじゃないかな。うん、たぶんそんな感じ。
看板一つにも滲み出る「皮肉」という名の芸術
まず、一番笑ったのがこれ。
山の中腹にある、誰も来ないような小さな湖のほとりに、ポツンと立ってた看板。「ペンギンに餌を与えないでください」。
…いや、いるわけないじゃん(笑)。
周りを見渡しても羊しかいないし、そもそもウェールズに野生のペンギンなんていない。これ、たぶん英語でしか書かれてないってのがミソで、「英語を話す観光客(つまり主にイングランド人)は、本当にペンギンがいるって信じちゃうほどお馬鹿さんだよね?」っていう、強烈な皮肉が込められてるんだと思う。正直、性格悪い(褒め言葉)。
海辺のリゾート地、スランディドノではカモメがマジで問題になってて。観光客がカフェで食べてるフライドポテトを、急降下して奪っていくらしい。それを街のアーティストが、郵便ポストの上で表現してた。毛糸で編んだカモメが、ポテトを盗んでる像。こういう quirky な、ちょっと変わったやり方で問題を表現するのも、彼ららしいなって思ったな。
長すぎる名前と、それをネタにする人々
ウェールズ語って、とにかく発音が難しいことで有名だよね。やたら長い単語とか、意味不明な子音の連続とか。一番有名なのが、あの世界一長い名前を持つ村。
Llanfairpwllgwyngyllgogerychwyrndrobwyllllantysiliogogogoch
(ランヴァイル・プルグウィンギル・ゴゲリフウィルンドロブル・ランティシリオゴゴゴホ…みたいな感じ?もうどうでもいいやw)
意味は「赤い洞窟の聖ティシリオ教会の近くの激しい渦巻きのそばの白いハシバミのくぼ地にある聖マリア教会」らしい。…うん、長い。
面白いのは、この名前、もともとはこんなに長くなかったってこと。観光客を呼ぶために、わざと「長くした」んだって。自分たちの言語の「ありえなさ」を逆手にとって、観光名所にしてしまう。この自虐と商魂のたくましさ、嫌いじゃない。
もちろん、ジョークのネタにもなる。
「妻に『あなた、Llanfairpwllgwyngyllgogerychwyrndrobwyllllantysiliogogogoch出身の女と浮気してるでしょ』って言われたんだ」
「だから僕はこう言ってやった。『どうしてそんなことが言えるんだい?』ってね」
…これ、英語の原文だと "How can you say such a thing?" (どうしてそんなことが言えるんだい? / どうしてそんなこと「が言える」んだい?)っていうダブルミーニングになってる。地名が長すぎて言えるわけないだろ、っていうツッコミだね。日本のストレートなツッコミ文化とはまた違って、じわじわくる感じだよね。
ウェールズ流ユーモアの種類をざっくり分けてみた
一口にウェールズのユーモアって言っても、いくつか種類がある気がする。ちょっとまとめてみようか。
| ユーモアの種類 | 根底にある感情 | 具体例とか |
|---|---|---|
| 対イングランド皮肉 | 長年の歴史からくる「してやったり感」。ちょっと陰湿だけど、知的。 | 例のペンギンの看板とか、城の逸話とか。直接悪口は言わないのがポイント。 |
| 自虐ネタ | 自分たちの言語や文化の「変なところ」を愛してる感じ。プライドの裏返し。 | あの長すぎる村の名前を、わざわざもっと長くしちゃうセンス。 |
| ブラックユーモア | ちょっと不謹慎?でも笑っちゃうやつ。死とかアルコールとか普通にネタにする。 | お酒の飲み過ぎを警告するバーの看板とか、これから話す昔話とか。 |
| 言葉遊び (Pun) | とにかくダジャレが好き。これはもう、言語的な特性かも。 | 英語の同音異義語を使ったジョークとか。地理ネタが多いのも特徴かな。 |
笑えない現実と、それを笑う人々
正直、笑えない話もあって。Public Health Wales によると、ウェールズでは男性の45%、女性の34%が健康推奨ラインを超えて飲酒していて、年間1500人くらいがアルコールが原因で亡くなってるらしい。半分近くの男性が飲み過ぎって…結構深刻だよね。
でも、そういう悲しい現実があるからこそ、一種の「絞首台のユーモア(gallows humor)」が生まれる。訪れたワインバーにあった有名な文句がまさにそれ。「アルコール依存症は笑い事じゃない。バーで笑うことだ」。笑えるけど、同時にドキッとする警告にもなってる。このギリギリのラインを攻める感じも、ブラックユーモアだよね。
あと、トイレのユーモアも秀逸だった。あるピザ屋さんのトイレのドアに、男性、女性、そして…宇宙人?みたいなマークが全部描いてある。「全ジェンダー、全生物対応」ってことらしい。そのピザ屋さん、利益をアジアやアフリカの霊長類保護プログラムに寄付してるんだって。そういうヒップな精神の表れなんだろうな。ちなみに、そこのピザはイギリスで一番美味しいらしい。今度行かなきゃ。
噂話が伝説になるまで:ウェールズの物語の伝統
今回の旅で一番印象的だったのが、コンウィ城で出会った「ウェールズの語り部(Cyfarwydd Cymru)」と名乗るおじいさん。
中世の衣装に身を包んで、城の奥にある玉座みたいな椅子に座っててさ。雰囲気ありすぎ。彼が、僕一人のために語ってくれた物語が、ウェールズのユーモアの根源を象徴してるみたいで、すごく面白かったんだ。
その物語の主人公は、キャサリン・オブ・ベラインっていう実在の貴族の女性。彼女は4回も結婚したことで有名で、夫が死ぬたびに、どんどん裕福な未亡人になっていった。まあ、当然、悪い噂が立つよね。「あいつ、夫を次々に毒殺してるんじゃないか」とか「秘密の愛人もいっぱいいて、飽きたら殺してるらしい」とか。
でも、歴史的な記録を見ると、彼女は全然そんな悪女じゃなくて、むしろウェールズの詩人や吟遊詩人(当時の語り部たちだね)のパトロンだったらしい。
で、ここからが語り部さんの腕の見せ所。彼が語る物語では、キャサリンは無実なんだ。
…物語はこう続く。
「若きキャサリンは、最初の夫が悪魔と契約して金持ちになったことを知ってしまう!彼女が二人の密会現場に踏み込むと、悪魔は夫の魂を地獄へ連れ去ってしまった…。残されたのは、ただの亡骸だけ。」
ここまでは悲劇。でも、エンディングがすごい。
「物語の最後は、最初の夫の埋葬式が行われている墓場。そこにいた別の男が、キャサリンに求婚するんだ。するとキャサリンは申し訳なさそうに断る。『ごめんなさい、できないの。だって、墓場に来る途中の霊柩車の中で、もう別の方からのプロポーズを受けちゃったから』ってね。」
…すごくない?夫の埋葬式の真っ最中に、次の、しかもその次の夫まで決まってるっていう。このブラックさ、このたくましさ。ゴシップや悲劇さえも、こんな奇妙で面白い伝説に変えてしまう。これがウェールズのストーリーテリングなんだなって。
最後の最後に笑うのは誰か
結局、ウェールズのユーモアの根底には、やっぱりイングランドへの対抗心があるんだと思う。コンウィ城みたいな巨大な城も、もともとはイングランドがウェールズを支配するために建てたもの。城壁の公式な説明版にこう書いてあった。
「この城は、征服者であるイングランドが1287年に最新の軍事技術を駆使して建設した。ウェールズの抵抗勢力による攻撃に耐えるためだ。これほど巨大で凶悪な建造物は、この地に前例がなかった。このコンウィ城を攻略しようとするのは、命知らずの愚か者か、よほどの策士だけだろう。」
でも、その説明文はこう締めくくられてるんだ。ニヤリとするようなウィンクと共に。
「話は1401年に飛ぶ。オワイン・グリンドゥールの支持者たちが、巧妙に城を騙し取り、奪取したのである。」
…「してやったり」感がすごいよね。自分たちを抑えつけるために作られた城の公式説明版で、自分たちがそれを出し抜いた話をしちゃう。最高すぎる。
今でも、これらの城の所有権はイギリス王室(Crown Estate)にあるらしくて、ウェールズの民族主義者にとっては、まだ燻ってる問題なんだとか。でも、面白いことに、城の管理運営はウェールズの観光局がやってて、その収益は全部ウェールズに入る。2023年には過去最高の960万ポンド(約19億円!)になったらしい。で、その観光客のほとんどは、イングランドから来てる。
これって、ある意味、現代におけるウェールズの「最後の笑い(last laugh)」なのかもしれないね。
そういえば、「ウェールズ人って根に持つタイプ?」ってネットの掲示板で質問してる人がいて、その答えが最高にウェールズだった。
「今のところ、900年かな」
…ユーモアって、ただ面白いだけじゃなくて、その土地の歴史とか、人々の誇りとか、そういうものが全部詰まってるんだなあって、改めて思った旅だった。
みんなが旅先で出会った「クスッときた看板」や「面白い話」があったら、ぜひ教えてほしいな。
